「AIがあればもう語学を勉強しなくていいじゃん」。
最近、そんな言葉をちらほら聞くようになりました。確かに、AI翻訳の技術はめざましい進化を遂げています。英語に限らず、多くの言語をリアルタイムで翻訳できるようになってきましたし、ちょっとしたメールのやり取りや文章の読解なら、Google翻訳やDeepLに頼ればなんとかなってしまう時代です。
では、本当に語学を勉強する必要はなくなるのでしょうか?
私は、それでも語学力は必要だと思っています。
むしろ、これからの時代こそ、「AIが使えるからこそ、人間が語学を学ぶ意味」が際立ってくるのではないかとすら思います。
翻訳では消えてしまう“ニュアンス”
AI翻訳の最大の長所は、スピードと正確さです。単語の意味、文法、言い回しなどを非常に高精度に処理してくれます。でも、やっぱり「その言葉の奥にある気持ち」までは、完全には伝えきれないなと感じる場面もあります。
たとえば、日本語で「まあまあかな」と言ったとき。
これを英語に訳すと多くの場合、“So-so.” や “Not too bad.” などになります。でも、日本語の「まあまあ」は、言い方や表情によって意味がかなり変わりますよね。気を使って控えめに言っているのか、本当に中途半端なのか、あるいはちょっとイラっとしてるのか…。
英語圏の人が「So-so」と言ったときも、たいていちょっとネガティブ寄り。でもそのニュアンスを知らなければ、「So-so = まあまあ=良い方」と勘違いしてしまうことも。
また、こんな例もあります。
- 日本語:「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
- 機械翻訳:”I’m sorry for the inconvenience.”
一見、合っています。意味も通じます。でも、「ご迷惑をおかけして…」には、日本語特有の丁寧さやへりくだりの気持ちが込められていて、単なる “inconvenience” 以上の「申し訳なさ」があるように思います。
一方、英語圏では「I’m sorry for the inconvenience」はテンプレ的なビジネス表現で、そこまで深い謝罪のニュアンスはない場合も多いんです。つまり、言葉の表面だけを見ていては、背景にある文化や感情は見えてこない。
語学を学ぶことで、こうした“ニュアンスの違い”に気づけるようになるんです。
言葉は、その人そのもの
もうひとつ、語学を学ぶことの大きな魅力は、話す人の人柄が言葉ににじみ出ることです。これは翻訳ではなかなか味わえません。
たとえば、英語で「ありがとう」と言う場合。
- “Thanks.”
- “Thank you!”
- “Much appreciated.”
- “Thanks a bunch!”
- “I really appreciate it.”
- “Thanks a million.”
どれも「ありがとう」ですが、砕けた印象、丁寧な印象、ちょっとふざけた感じ…表現によって、その人の性格や関係性が見えてきます。
“Thanks a bunch!” をよく使う人は、カジュアルで明るい性格かもしれない。
“Much appreciated.” を使う人は、ちょっとビジネスっぽい場面で使い慣れているのかも。
翻訳ツールを通してしまえば、これらはすべて「ありがとう」とひとまとめになってしまうかもしれません。でも、実際にその言語を理解していると、「あ、この人って実は気さくなタイプなんだな」とか「ちょっと距離感があるな」など、言葉づかいの背後にある“人となり”が透けて見えるんです。
私はこの感覚がたまらなく好きです。
AIはすごい。だからこそ、活かし方を考えたい
もちろん、AI翻訳を否定するつもりはまったくありません。むしろ、AIの翻訳はめちゃくちゃ便利です。
仕事で急ぎの翻訳が必要なとき、ちょっと調べものをしたいとき、海外の人とチャットをするときなど、私は日常的にAIの助けを借りています。
私が言いたいのは、「AIがあるから語学は不要」という極端な考え方に、ちょっと待ったをかけたいということです。
たとえば料理にたとえるなら、AI翻訳はスーパーの総菜。すぐに食べられて便利。でも、毎日それだけだとちょっと物足りないし、自分で作ったほうが「味わい」や「工夫」がある。それに、作る過程でいろんなことを学べます。
語学も同じだと思います。
AIは使うべきところで思い切り使えばいい。
でも、それとは別に、自分の手で、耳で、体で感じる言葉の面白さも忘れたくない。
その“味”を知っている人こそ、AIともうまく付き合っていけるはずです。
最後に:語学は人との距離を縮めるもの
最後に、個人的な経験をひとつ。
私は以前、英語を話す外国の方とやり取りする機会がありました。そのとき、翻訳アプリでやりとりしても意味は伝わるんだけれど、なんだか“距離”があるように感じたんです。
でも、自分の下手な英語で一生懸命話しかけると、相手がふっと笑ってくれて、「あなたの英語、かわいいね」と言ってくれた。その瞬間、ぐっと距離が縮まったように感じました。
語学って、結局は“心を通わせる道具”なんだなと思ったんです。
AIが通訳してくれる世界でも、やっぱり人と人との関係は、言葉と心でつながっていく。
だから私は、これからも語学を勉強し続けたいと思います。AIの力も借りながら、自分の言葉で、世界とつながっていきたいです。
